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米国(アメリカ)特許に関する丸島敏一による個人的メモです。適宜更新していく予定です。

書籍「MPEPの要点が解る 米国特許制度解説」の第3版が刊行されました。

クラフト国際特許事務所

MPEP

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索引

112a

112条(a)

 112条(a)は、明細書には、発明およびその製造や使用の方法を、当業者にとって製造および使用できるように、完全、明瞭、簡潔かつ正確な用語で記載しなければならず、発明者が最良と考える実施態様を記載しなければならない旨規定しています。この112条(a)の規定は、

  • 記述要件(Written Description requirement)
  • 実施可能要件(Enablement requirement)
  • 最良実施態様(ベストモード)要件(Best Mode requirement)

の3つの要件を定めるものであり、また、これらの要件はそれぞれ互いに別個独立の要件として解釈されます(MPEP §2161)。


35 U.S.C. 112
"(a) IN GENERAL.- The specification shall contain a written description of the invention, and of the manner and process of making and using it, in such full, clear, concise, and exact terms as to enable any person skilled in the art to which it pertains, or with which it is most nearly connected, to make and use the same, and shall set forth the best mode contemplated by the inventor of carrying out his invention."


記述要件

 この記述要件を要求するのは、出願人が発明したという情報を明確に伝え、また、公衆がその発明に関する情報を入手できるようにするためです。特許期間中の排他的権利と引き換えに、明細書において発明を十分記述させることを保証することにより技術の発展を促すこととしたものです(MPEP §2163)。従って、出願当初の明細書中に記載のない事項を出願後にクレームに追加する補正は、この112条(a)違反として拒絶されます(MPEP §2163.06)。なお、新規事項をクレーム以外に追加する補正は、通常はクレームの範囲を変更するものではありませんので本条違反ではなく、第132条の規定(35 U.S.C. 132)に違反するものとしてオブジェクションの対象となります。
 この記述要件に沿っているかは、「その記述は当業者にとって、クレームされた発明を明確に認識させるものであるか」との判断基準が通常用いられます(MPEP §2163.02)。また、この記述要件は、出願時の当業者を基準として判断されます(MPEP §2163 I.B.)。

実施可能要件

 この実施可能要件は、クレームされた発明が当業者にとって製造又は使用できるものであることを要求するものであり、発明が有意な方法で公衆に伝達されることを保証するものです(MPEP §2164)。
 この実施可能要件を満たしているかは、「その発明を実施するのに当業者にとって過度な実験(undue experimentation)をする必要がないか」との判断基準が通常用いられています(MPEP §2164.01)。この基準を満たす限り、出願人は必ずしも実動する実施例(working example)を記載する必要はありません(MPEP §2164.02)。また、この実施可能要件は、出願時の当業者を基準として判断されます(MPEP §2164.05(a),(b))。
 本要件に違反する事例として、(1)構成要素が一つしかないクレーム(single means claim)が存在する場合、(2)動作しない実施例がクレームの範囲に含まれている場合、(3)明細書の中で不可欠(critical)とされている特徴がクレームに記載されていない場合等は、この実施可能要件に違反するものとして112条(a)により拒絶されます(MPEP §2164.08)。

最良実施態様(ベストモード)要件

 この最良実施態様要件は、完全な開示がされぬまま特許権による保護を受けることに対する防護策であり、最良の態様を隠匿して次善の態様のみを開示することを禁止するものです(MPEP §2165)。
 この最良実施態様要件を満たしているかは、第1に出願時に発明者が発明を実施するための最良実施態様を知っていたか(主観的問題の認定)、第2に当業者が実施できる程度に最良実施態様が記述されていたか(客観的問題の認定)、によって判断されます(MPEP §2165.03)。従って、出願時に発明者が最良実施態様を知らなかった、または、最良実施態様であることを認識していなかった場合には、最良実施態様要件違反とはなりません(MPEP §2165)。また、本要件違反とされるには積極的隠蔽もしくは著しく不公正な行為というレベルに至る必要はありません(MPEP §2165)。
 最良実施態様要件を満たすために、継続出願時やパリ条約の優先権主張時に最良実施態様を更新する必要はありませんが、一部継続(CIP)出願において新規事項を追加する場合にはその際に更新する必要があります(MPEP §2165.01)。なお、当初の出願時に最良実施態様要件違反となっている場合には、あとから新規事項を追加する補正をしても治癒することができません(MPEP §2165.01)。
 2011年法改正により、2011年9月16日以降に開始される手続においては、このベストモード要件違反を、無効もしくは権利行使不能の理由とすることはできなくなりました(35 U.S.C. 282(3))。また、仮出願や継続出願の優先権発生要件からも除外されています(35 U.S.C. 119(e), 120)。

112a.txt · 最終更新: 2015/09/29 11:28 by marushima