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非自明性

 特許要件としての非自明性(nonobviousness)は、米国特許法第103条(35 U.S.C. 103)に規定されています。



35 U.S.C. 103
"A patent for a claimed invention may not be obtained, notwithstanding that the claimed invention is not identically disclosed as set forth in section 102, if the differences between the claimed invention and the prior art are such that the claimed invention as a whole would have been obvious before the effective filing date of the claimed invention to a person having ordinary skill in the art to which the claimed invention pertains. Patentability shall not be negated by the manner in which the invention was made."


 103条は、102条に規定するような同一の発明が開示されていなくても、発明全体として有効出願日前の当業者にとって先行技術との差異が自明な程度であるならば特許されず、また、特許性は発明された手法の如何によって否定されることはない旨規定しています。日本の特許法における進歩性に相当するものです(日本特許法第29条第2項)。

 2011年法改正により、新規性の基準が有効出願日となったことに伴い、この非自明性の基準も有効出願日に改められました。

 2011年法改正前の103条(c)(1)では、発明時に同一人に所有されまたは同一人に譲渡義務があるならば103条は適用されない旨規定されていましたが、改正後の102条(b)(2)(C)の規定により新規性の適用が除外されたため、不要となり削除されました。また、2011年法改正前の103条(c)(2),(3)では、共同研究契約に基づく成果として相手方がなした発明について規定されていましたが、改正後の102条(c)の規定によって新規性の適用が除外されたため、不要となり削除されました。

非自明性の判断

 非自明性の判断は、以下の4つの事実認定を基礎としてなされます(MPEP §2141)。


 A.先行技術の範囲と内容を決定する。
 B.先行技術と対象クレームとの差異を明確にする。
 C.当業者の技術水準を確定する。
 D.二次的考慮事項(secondary considerations)の証拠を評価する。


 これらはグラハム事件(Graham v. John Deere Co., 383 U.S. 1, 148 USPQ 459 (1966))で採用された事実認定を基にしていることから、グラハムテストとよばれています。

 (a) 「先行技術の範囲」については、103条(c)の特例を除き、102条で適用可能な先行技術は103条でも適用可能です(MPEP §2141.01)。また、出願人が先行技術であると認めたもの(admitted prior art)は自明性による拒絶の根拠として用いられる可能性があります(MPEP §2129)。

 (b) 「当業者の技術水準」を確定するに当っては、発明者の教育レベル、課題のタイプ、課題に対する従来技術、技術革新の速度、技術の高度性/複雑性、当該分野の技術者の教育レベル、等を考慮することになっています(MPEP §2141.03)。

 (c) 「二次的考慮事項」としては、商業的成功(commercial success)、長年望まれていたニーズ(long-felt but unsolved needs)、予期せぬ結果(unexpected results)、他者による失敗(failure of others)等が例示されています(Graham v. John Deere Co., 383 U.S. 17, 148 USPQ 467 (1966); MPEP §2141 )。但し、これら二次的考慮事項については証拠が必要であり、その二次的考慮事項とクレームとの関連性を示す必要があります(MPEP §2145)。

非自明性の立証

 103条により拒絶するためには、最初に審査官が「一応自明であること(prima facie obviousness)」を示さなければなりません(MPEP §2142)。すなわち、自明性についての立証責任は審査官にあります。公知技術を組み合わせて自明性により拒絶する際に教示(teaching)、示唆(suggestion)、動機付け(motivation)の有無を調べるTSMテストは有効であるものの、過度に厳格に適用すべきでないとの判断が、KSR最高裁判決(KSR International Co. v. Teleflex Inc., 550 U.S. 398 , 82 USPQ2d 1385, 1395-97 (2007))においてなされました(MPEP §2141)。審査官は、公知技術を組み合わせるための動機付けを示す必要がありますが、その動機付けは必ずしも引用文献の中に記載されている必要はありません(MPEP §2143)。

 KSR最高裁判決に伴い、特許商標庁は自明性を支持するための根拠として以下の7点を例示的に列挙しています(MPEP §2143)。
 (A) 予想可能な結果を得るための公知の方法に従った公知技術の組合せ
 (B) 予想可能な結果を得るための公知の要素の単なる置換
 (C) 類似装置(方法、製品)を同様の手法で改良するための公知の技術の使用
 (D) 予想可能な結果を得るために改良の準備ができている類似装置(方法、製品)に対する公知技術の適用
 (E) 合理的な成功への期待の下の、有限の数の認識された予想可能な解決策からの選択("Obvious to try")
 (F) 一つの試行される分野における公知の成果は、もしその変形が当業者にとって予測可能であれば、設計動機または他の市場強制力に基づいて同じ分野または異なる分野における変形を促すかもしれない
 (G) 当業者がクレームされた発明に想到するために公知技術を修正または結合することを導いた、公知技術における教示、示唆または動機付け

出願人の対応

 審査官がひとたび「一応自明であること」を示すと、今度は立証責任が出願人側に移ります(MPEP §2142)。出願人は、例えば次のような主張により、「一応自明であること」に対して反論することができます(MPEP §2144.05, §2145)。
  ・クレームの範囲において予期せぬ結果を達成できることに基づく、その範囲が重要であるとの主張
  ・クレームされた発明とは反対方向へ引用例が説示しているとの主張(teach away)
  ・審査官の結論は不適切な「後知恵(hindsight)」によるものであるとの主張
  ・試行(パラメータ等)するのは自明であるという審査官の理屈は不適切であるとの主張

 一方、以下のような出願人の反論は認められないことになっています(MPEP §2145)。
  ・先行技術における追加的な利点や潜在的性質を単に認識したという主張
  ・先行技術の装置は物理的に結合できないとの主張
  ・個々の引用例に対する反論のみの主張
  ・引用例の数が多すぎるとの主張
  ・クレームされていない限定事項に関する主張
  ・経済的理由により結合されないとの主張
  ・引用例が古過ぎるとの主張